2026年2月20日、高市早苗首相は施政方針演説において、「裁量労働制の見直し」を検討する方針を表明しました。
少子高齢化による労働力不足や国際競争力の低下が懸念される中、日本政府は「自律的で柔軟な働き方」の拡大を成長戦略の柱に据えようとしています。
しかし、この制度拡大には経済界と労働界で激しい意見の対立があり、現場の労働者からも「残業代逃れではないか」という強い懸念の声が上がっています。
本記事では、裁量労働制の仕組みや今回の議論のポイント、そして浮き彫りとなっている課題を詳しく解説します。
1. そもそも「裁量労働制」とは何か?
裁量労働制とは、実際の労働時間に関わらず、あらかじめ労使間で決めた時間(みなし労働時間)を働いたものとみなして賃金を支払う制度です。
- メリット
仕事の進め方や時間配分を労働者自身の裁量に委ねるため、効率的に仕事を終わらせれば早く帰宅でき、ワークライフバランスの向上が期待できます。 - デメリット
業務量が過大な場合、どれだけ長時間働いても「みなし時間」分の給与しか支払われないため、長時間労働の温床になるリスクがあります。
現在は、研究開発やデザイナーなど特定の専門職を対象とした「専門業務型」と、企業の運営に関わる企画・立案を行う「企画業務型」の2種類に限られており、適用労働者は全体の2%未満にとどまっています。
2. 高市政権が目指す「見直し」の背景と狙い
高市首相がこのタイミングで見直しを掲げた背景には、日本の「労働生産性の向上」という至上命題があります。
経済界の主張:国際競争力の強化
経団連をはじめとする経済界は、現在の対象職種が限定的すぎる(現在は20職種+企画業務)と指摘しています。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)やグローバル化が進む現代において、一律の時間管理は馴染まない」とし、労使合意があれば対象職種を柔軟に拡大できる仕組みを求めています。
政府の狙い:多様な働き方の推進
政府は、時間ではなく成果で評価される仕組みを広げることで、高度なスキルを持つ人材がより自由に、かつ効率的に働ける環境を整え、イノベーションを創出したい考えです。
3. 「働かせ放題」への懸念:労働者側が反対する理由
一方で、連合(日本労働組合総連合会)の芳野友子会長は「命と健康に悪影響を及ぼすリスクがあり、断固反対」と強い姿勢を示しています。
「みなし」と「実態」の乖離
厚生労働省の調査によると、裁量労働制が適用されている労働者の実労働時間は、「みなし労働時間」よりも1日平均で約50分長いという実態が明らかになっています。
残業代逃れと健康リスク
通常、労働基準法では残業時間の上限(原則月45時間、最大100時間未満)が定められていますが、裁量労働制の場合、業務遂行のために「みなし時間」を超えて働いても、法的な残業時間規制の枠外で扱われやすい側面があります。
これが「定額働かせ放題」と揶揄される所以です。
4. 今後の議論の焦点:解決すべき3つのポイント
高市首相の方針を受け、厚生労働省の審議会では今後以下の点が激しく議論される見通しです。
- 対象業務の拡大範囲
どこまでの職種に広げるのか。事務職などにも波及するのか。 - 健康確保措置の実効性
勤務間インターバル(終業から始業までの休息時間)の義務化など、過労死を防ぐための具体的な担保があるか。 - 労働者の同意と撤回
制度適用を拒否した際に不利益な扱いを受けないか、また一度同意した後に撤回できる権利が保障されるか。
まとめ:真の「働き方改革」となるか
裁量労働制の拡大は、自律的に働きたいプロフェッショナルにとっては追い風となる一方、運用の仕方を誤れば労働環境の悪化を招く諸刃の剣です。
高市政権には、企業の生産性向上という「経済の論理」と、労働者の健康を守る「福祉の論理」をいかに高い次元で両立させるかが問われています。今後の審議会の動向から目が離せません。

